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名古屋高等裁判所 平成元年(行コ)18号 判決 1990年6月28日

名古屋市昭和区南山町七番地の八

第一八号事件控訴人

舛都志江

名古屋市守山区小幡北山二七六一番地の一一〇三

第一九号事件控訴人

花井孝士

名古屋市千種区法王町二丁目五番地の二

第二〇号事件控訴人

科野栄蔵

名古屋市中村区太閤四丁目一五番一〇号

第二一号事件控訴人

所千秋

愛知県春日井市弥生町二丁目一五三番地

第二二号事件控訴人

岡崎昌夫

右五名訴訟代理人弁護士

竹下重人

名古屋市瑞穂区西藤塚一番地四

第一八号事件被控訴人

昭和税務署長

越知崇好

名古屋市北区清水五丁目六番一六号

第一九号事件被控訴人

名古屋北税務署長

安間俊夫

名古屋市千種区振甫町三丁目三五番地

第二〇号事件被控訴人

千種税務署長

横山明

名古屋市中村区太閤三丁目四番一号

第二一号事件被控訴人

名古屋中村税務署長

広沢鉄二

愛知県小牧市大字小牧字東浦一九五〇番地

第二二号事件被控訴人

小牧税務署長

竹田宗之

右五名指定代理人

深見敏正

伊藤登志也

鈴木彬夫

清水利夫

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一八号事件について)

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 控訴人の昭和五九年分所得税につき、被控訴人が昭和六一年六月九日付でした更正処分を取り消す。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(第一九号事件について)

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 控訴人の昭和五九年分所得税につき、被控訴人が昭和六一年五月二八日付でした更正処分を取り消す。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(第二〇号事件について)

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 控訴人の昭和五九年分所得税につき、被控訴人が昭和六一年六月二四日付でした更正処分(同月二日付でした更正処分を含み、昭和六三年九月二〇日付更正処分による一部取消し後のものをいう。)を取り消す。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(第二一号事件について)

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 控訴人の昭和五九年分所得税につき、被控訴人が昭和六一年五月二七日付でした更正処分を取り消す。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(第二二号事件について)

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 控訴人の昭和五九年分所得税につき、被控訴人が昭和六一年六月九日付でした更正処分を取り消す。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人ら

給与の受給者には、源泉徴収されるべき所得税の額について、その支払者と協議する機会が与えられておらず、また、現実に源泉徴収された所得税の額以外に「徴収されるべき所得税の額」を知り得る機会もない。したがつて、確定申告に当たり、受給者に対し、源泉徴収票または支払調書に記載された源泉徴収税額が適正なものであるか否かを検討し、現実に源泉徴収された所得税の額に過誤がある場合に正当な「徴収されるべき所得税の額」を算定して確定申告書を作成して提出すべきものとすることは、源泉徴収が受給者の所得税の前払的なものとして支払者によつて機械的になされていることと矛盾し、納税者に無理を強いるものである。これらの点からしても、控訴人らが原審において主張した便宜的取扱い、すなわち、支払者によつて現実になされた源泉徴収、納付の過不足を、受給者において確定申告をする際に精算調整することを認める取扱いは許されるべきである。

二  被控訴人ら

控訴人らの右主張は争う。

第三証拠

証拠関係については、本件記録中証拠目録欄記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由については、次のとおり付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

現行の源泉徴収制度のもとにおいて、受給者に、源泉徴収されるべき所得税の額について支払者と協議する機会が与えられていないことは、控訴人ら主張のとおりである。しかしながら、そもそも、所得税の源泉徴収は、所得税法等法令の定めるところに従つて画一的に処理されるべきものであり、その性質上源泉徴収の対象となるべきことの明らかな所得の種類は法定され、支払われた(または支払われるべき)所得の額と法令の定める税率等から支払者の徴収すべき受給者の所得税の額は法律上当然に決定されるものである。したがつて、源泉徴収されるべき所得税の額について、受給者に支払者と協議する機会が与えられていないのは制度の仕組上当然のことであり、そのことが控訴人ら主張の便宜的取扱いを認めるべき根拠となるものではない。

また、右に述べた源泉徴収の仕組みからして、受給者は、給与等の支払時期に源泉徴収された所得税の額が記載された給与明細書の交付を受け、これを所得税法等に照らして検討することによつて、現実に徴収された所得税の額が適正なものであるかどうかを知り得るものというべきである。したがつて、受給者に「徴収されるべき所得税の額」を知り得る機会が与えられていないことを前提とする控訴人らの前記主張は既にその前提において失当である。

そして、原判決が説示するとおり、源泉徴収の場面における課税権者たる国と徴収義務者たる支払者との間の法律関係と、申告納税の場面における国と申告者たる受給者との間の法律関係とは全く異なるものというべきであるから、源泉徴収の段階において、支払者によつて徴収、納付された所得税の額の過不足を、申告納税たる確定申告の際に、受給者において国との関係で精算調整することは、現行法上許されていないものと解すべきである。したがつて、仮に控訴人ら主張の本件収入が一時所得であり、源泉徴収されるべき所得税の額に過不足が生じていたものとしても、現行の源泉徴収制度の仕組上控訴人ら主張に係る便宜的取扱いを認めることはできないものと言わざるを得ない。

以上によれば、原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅香恒久 裁判官 林輝 裁判官 鈴木敏之)

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